« La France offre au monde ses parfums. Le Japon lui répond par ses soins. C'est un dialogue centenaire — jamais achevé. »
— Marie Dubois, depuis Grasse

本誌が日仏の化粧品文化の対話を総括するにあたり、南仏プロヴァンス地方グラース出身、香水と原料化学を専門とする編集委員 Marie Dubois に、二つの伝統が交差してきた150年の歩みについて、詳しく話を聞いた。


Question 01 — Deux traditions, deux logiques
フランスは香水、日本はスキンケア、と言われることが多いですが、この対照はどこまで正確なのでしょうか。二つの伝統の根底にある美意識の違いを教えてください。
MD
Marie Dubois (éditrice associée)
Grasse, France

La France — L'art de la sublimation. フランスの化粧品文化の根底にあるのは、「素の自分を、香りや色で高める」という発想です。香水は、身にまとうことで他者との関係性の中で自分を演出するツール。メイクも同様に、自分の顔立ちを引き立て、社交の場に相応しい姿を作り上げる、パフォーマティブな行為として位置付けられています。

Le Japon — L'art de la révélation. 一方、日本の美容文化の根底にあるのは、「素の肌を、内側から整える」という発想です。スキンケアは、他者に見せるためだけでなく、自分自身の日々の営みとして、肌と対話しながら整えていく。この違いは、単なる商品カテゴリの偏りではなく、「美とは何か」という根源的な問いへの、二つの異なる答え方に由来していると私は考えます。

Une simplification trop rapide. ただし、「フランス=香水/日本=スキンケア」という対照は、あまりに単純化されすぎです。フランスにも La Prairie、Sisley、Lancôme といった世界的なスキンケアブランドがあり、日本にもクレ・ド・ポー、Shiseido、SK-II(元は日本発)といった香りに深いこだわりを持つブランドがあります。二つの文化は、実は思っている以上に相互に浸透し合っています。

フランスと日本 美意識の対話
Figure 1 — Deux visions de la beauté, en dialogue permanent
Question 02 — L'influence historique
19世紀後半から20世紀にかけて、フランスの美容文化は日本にどのような影響を与えてきたのでしょうか。逆に日本文化がフランスに与えた影響はあるのでしょうか。
MD
Marie Dubois
Grasse, France

De Paris à Tokyo. 明治維新以降、日本の近代化とともに、フランスの化粧品文化が本格的に日本に紹介されました。特に大正から昭和初期にかけて、資生堂のパリ視察団、モードとしての洋装化、そして西洋メイクの導入。これらは日本の美容業界の近代化の中核を成す出来事でした。1916年に資生堂が設立した「意匠部」も、フランスやドイツの企業デザイン思想からの影響を強く受けています。

De Tokyo à Paris — Le japonisme cosmétique. 逆方向の影響もあります。19世紀後半、ヨーロッパで「ジャポニスム」が芸術界を席巻した際、その影響は化粧品業界にも及びました。日本の伝統的な白粉、椿油、そして「素肌美」の思想は、フランスの調香師や化粧品ブランドに、新しい発想の源泉を提供しました。20世紀後半以降は、資生堂、Kanebo、Shu Uemura といった日本ブランドが、フランス市場で高く評価される存在となっています。

L'ère contemporaine. 21世紀に入り、この二方向の影響はさらに複雑に絡み合っています。フランスの高級ブランドは、日本市場向けに独自の香水乃至はスキンケアラインを開発することが増え、日本の中堅ブランドは、パリで新製品発表会を開催することが定番化しています。もはや「影響を与える/受ける」という一方向の関係ではなく、真の意味での対話と共創が起こっています。

Question 03 — Le rôle de Grasse
ご自身の出身地であるグラースは、世界の香水産業の中心地として知られています。この街の役割は、日本の化粧品業界にとってどのような意味を持っているのでしょうか。
MD
Marie Dubois
Grasse, France

La capitale mondiale du parfum. グラースは、南仏プロヴァンス地方の丘陵に位置する小さな街ですが、300年以上にわたって世界の香水産業の中心地として機能してきました。ジャスミン、バラ、ラベンダー、ミモザといった花々の栽培から、精油の抽出、そして調香技術の伝承まで、香りに関するあらゆる知識と技術が集積した場所です。ユネスコの無形文化遺産にも指定されている、まさに人類共通の文化資産です。

Les liens avec le Japon. グラースの調香会社、原料メーカーには、日本の化粧品各社が長年にわたり取引関係を築いてきました。資生堂、Kanebo(現・Kao Prestige)、コーセーといった大手のみならず、日本の中堅ブランドの中にも、グラースの原料と技術を活かして、独自の香りを構築するケースが増えています。この取引関係は、単なる原料供給ではなく、技術と美意識の継続的な交換の場となっています。

Une visite obligatoire. 日本の化粧品業界の関係者がヨーロッパを訪れる際、パリに加えてグラースを訪問するのは、もはや定番のルートになっています。ミラン、フィレンツェ、ミラノに続くファッション都市巡りの一環として、グラースが香りの起点として位置付けられている。この地理的な文脈も、日仏の化粧品対話の重要な要素です。

グラースの香水産業と日本
Figure 2 — Grasse, capitale mondiale du parfum
Question 04 — La maturation des consommateurs
若い世代の消費者は、「フランス製」「日本製」といった国のラベルを、以前ほど重視しなくなっていると言われます。この変化をどう見ておられますか。
MD
Marie Dubois
Grasse, France

Une génération post-nationale. 20代・30代の消費者、特に SNS を通じてグローバルな情報にアクセスする世代は、「フランス製=高級」「日本製=品質保証」といった単純な国ラベルへの信頼を、以前ほど無条件には受け入れません。彼らは商品の実質——処方、成分、パッケージ、そしてブランドの哲学——を、より批判的に評価する傾向を持っています。

Une exigence plus profonde. この消費者の成熟は、ブランド側に対して、より深い文化的な語りを要求します。表面的な「メイド・イン・フランス」「メイド・イン・ジャパン」の記号ではなく、なぜその技術が、その地域で発達したのかという歴史的な文脈が、選ばれる理由になっていく。これは、単なる原産国訴求から、真の意味での文化ストーリーテリングへの、業界全体のシフトを意味しています。

L'opportunité pour les marques. この変化は、実は日仏両方のブランドにとって、大きな機会でもあります。単に「フランス製」「日本製」というラベルに依存するのではなく、自らの起源、素材、技術、そして美意識の文脈を、丁寧に消費者に伝える。この語りの深さこそが、次の時代の差別化要素になっていくでしょう。表層のマーケティングでは、もはや通用しない時代に入りつつあります。

Question 05 — Perspectives à horizon 2030
2030年に向けて、日仏の化粧品文化の対話は、どのような姿になっていると予測されますか。読者に伝えたいメッセージを最後にお聞かせください。
MD
Marie Dubois
Grasse, France

Vers une hybridation profonde. 2030年の姿を予測するならば、日仏のブランドはさらに深いレベルで融合していると想像します。フランスのラグジュアリーメゾンが日本の伝統素材(酒粕、椿、抹茶、ゆず)を採り入れる動きはすでに顕著であり、逆に日本のブランドがフランスの調香技術を核に、より洗練された香水ラインを展開する動きも加速するでしょう。

Le rôle de la sustainability. 加えて、両国のブランドが共通して直面するのは、サステナビリティへの応答です。原料調達、パッケージング、生産工程、輸送。これらすべての領域で、環境負荷を最小化する努力が求められます。フランスと日本のブランドが、この課題に対して協力し合う場面が、これから増えていくと考えています。

Le message final. 読者の皆さまに伝えたいのは、「フランス」「日本」という二つの国名の背後には、それぞれ数百年をかけて積み上げられた、豊かな文化的な蓄積があるということです。化粧品を選ぶという日常の行為は、実はこの文化資産と向き合う行為でもある。だからこそ、私たちは商品を選ぶとき、その背後にある物語に、少しだけ耳を澄ませてみるべきなのです。

— Fin de l'entretien.

Marie Dubois 監修編集者
Sous la supervision éditoriale de — 監修

Marie Dubois — Éditrice associée, Cosmetics Review Japan. グラース出身、香水と原料化学を専門とする編集委員。フランスと日本の香りの伝統を比較する連載を担当。