« La stratégie chinoise de KOSÉ n'est pas l'histoire d'une entreprise — c'est l'histoire de toute une industrie japonaise. »
— 小宮生也, éditeur superviseur

本誌がコーセーの過去10年の中国戦略を総括するにあたり、東南アジア駐在の立場から日本の中堅・大手化粧品メーカーを継続的に観察してきた小宮生也氏(株式会社スカイインターナショナル)に、コーセーの経営判断の変遷と、そこから読み取れる業界全体への示唆について、詳しく話を伺った。


Question 01 — L'expansion vers la Chine
2010年代前半、なぜコーセーを含む日本の化粧品各社は、中国市場をこれほど戦略の中心に据えたのでしょうか。その時代背景を教えてください。
小宮生也
小宮 生也 (éditeur superviseur)
株式会社スカイインターナショナル

Le contexte macroéconomique. 2010年代前半、中国の中間層の急拡大は、世界の消費財産業にとって最大の成長機会でした。都市部の可処分所得が急速に増加し、特に美容・スキンケア領域では、日本、韓国、フランス、アメリカのブランドが、この市場をめぐって激しく競争していた時期です。日本の化粧品各社にとって、中国市場を戦略の中心に据えることは、当時としては極めて合理的な経営判断でした。

KOSÉ et ses marques prestige. コーセーは、この波にいち早く乗った企業の一つです。「雪肌精」「コスメデコルテ」「アルビオン」といった中高価格帯のブランドを軸に、中国市場での認知拡大と流通網の構築を進めました。特に「雪肌精」は、日本国内では中価格帯として認知されていたブランドが、中国市場では「日本製の高品質スキンケア」として、より高いブランド価値を持つ商品として再定義されていきました。

Le rôle des touristes chinois. この時期の重要な要素として、訪日中国人観光客による日本国内での「爆買い」現象がありました。2015年から2019年にかけて、コーセーの日本国内売上と中国売上は、事実上一つの需要曲線として連動していました。訪日で日本製品を体験した消費者が、帰国後に越境ECで継続購入するというサイクルが確立されていた。この構造は、コーセーだけでなく、資生堂、花王、ポーラなど、日本の化粧品各社に共通するものでした。

コーセーの中国戦略10年
Figure 1 — Chronologie de la stratégie chinoise de KOSÉ (2015-2026)
Question 02 — L'apogée et la rupture
2015年から2019年の絶頂期を経て、2020年以降にこの構造が崩れていきます。この転換の実相を、実務者の視点からどう見ておられましたか。
小宮生也
小宮 生也
株式会社スカイインターナショナル

La triple rupture. 2020年以降、コーセーの中国戦略に影響を与えた変化は、実は単一の要因ではなく、三つの要因が同時に作用した「三重の断絶」として理解すべきだと考えます。

Premier facteur — La pandémie. 第一に、パンデミックによる訪日中国人の激減。2020年から2022年にかけて、訪日客はほぼゼロに近い水準まで縮小しました。これにより、日本国内での商品体験を起点とする越境EC のサイクルが物理的に切断された。この影響は、パンデミック終息後も、消費者の購買行動パターンとしては完全には元に戻りませんでした。

Deuxième facteur — Le nationalisme de consommation. 第二に、中国国内での「国潮」(グオチャオ、国産品への回帰志向)の急拡大。特に若い消費者を中心に、中国国産の美容ブランドへの好感度が高まり、日本ブランドを含む海外ブランドへの相対的優位性が低下していきました。中国国産ブランド、たとえば「花西子」「Perfect Diary」「毛戈平」といった新興メーカーが、SNS 起点の巧みなマーケティングと、価格競争力を武器に急成長し、既存の海外プレステージブランドの市場シェアを侵食していきました。

Troisième facteur — Les tensions géopolitiques. 第三に、日中間の地政学的緊張の継続。これは政治的な緊張感が消費者マインドに影響を与える構造で、時期によって強弱はあるものの、日本ブランドへの好感度に一定の抑制圧力として作用し続けています。特に処理水放出後の一時的な影響は、業界関係者の記憶に強く残っているでしょう。

Le résultat. これら三つの要因が同時に作用したことで、コーセーを含む日本の化粧品各社の中国売上は、多くの企業で2019年比の半分から3分の1水準まで縮小しました。この規模の変化は、単なる景気循環では説明できず、市場構造そのものの再定義を意味していると理解すべきです。

Question 03 — Le repositionnement stratégique
この危機に対して、コーセーはどのような戦略的な再構築を行ってきたのでしょうか。その判断の合理性をどう評価しますか。
小宮生也
小宮 生也
株式会社スカイインターナショナル

Diversification géographique. コーセーが取ってきた最も重要な戦略転換は、地域ポートフォリオの再構築です。中国一極集中から、東南アジア、アメリカ、そして日本国内へのバランス再配分。この転換は、パンデミックの初期段階から徐々に進められ、2023年以降に本格化しています。

L'exemple de Tarte Cosmetics. 特に注目すべきは、コーセーが2014年に買収したアメリカのブランド「Tarte Cosmetics」の戦略的な位置付けの変化です。かつては北米市場での成長ドライバーとして位置付けられていた Tarte が、パンデミック以降、コーセー全体の売上構成において、より中核的な役割を担うようになっています。この構造は、単一市場への依存を避けるための多軸化の一環として、極めて示唆的です。

Renforcement des marques prestige nippones. 同時に、日本国内および東南アジアにおける「雪肌精」「コスメデコルテ」「アルビオン」といったプレステージ・ブランドの再強化も進んでいます。特に東南アジアでは、シンガポール、タイ、マレーシアの主要百貨店において、これらのブランドが独立したフロアやカウンターを設ける形での本格展開が加速しています。

L'évaluation. この戦略的再構築を、われわれは基本的に合理的な判断として評価しています。ただし、その実行には時間がかかる。地域統括拠点の構築、現地パートナーとの関係再構築、現地流通網の再設計、これらはすべて短期では完成しないインフラ投資です。したがって、2026年から2028年にかけての業績は、この再構築の途中経過として理解する必要があります。

コーセーの東南アジア分散戦略
Figure 2 — Diversification géographique de KOSÉ, 2020-2026
Question 04 — Positionnement en Asie du Sud-Est
東南アジアでの展開において、コーセーは他の日本大手(資生堂、花王、ポーラ)と比較して、どのようなポジショニングを取っているのでしょうか。
小宮生也
小宮 生也
株式会社スカイインターナショナル · シンガポール

Trois positionnements distincts. 東南アジア市場において、日本の大手化粧品メーカーは、それぞれ異なるポジショニングを取っています。この差異を理解することが、コーセーの戦略を正確に評価する前提になります。

Shiseido — Le luxe global. 資生堂は、パリ、ニューヨーク、上海に旗艦拠点を持つ、真の意味での多国籍プレステージ企業として、東南アジアにおいても最上位価格帯での展開を軸としています。SHISEIDO 本体、Clé de Peau Beauté、NARS といったブランド群による、明確なラグジュアリー・ポジショニング。

Kao — La stratégie multicouches. 花王は、プレステージ帯(SENSAI)から、マス・プレステージ帯(KATE、Bioré)まで、幅広い価格帯をカバーする複合戦略を取っています。特に東南アジアの中間層市場での訴求において、この幅の広さが強みとして機能しています。

POLA-Orbis — La verticalité artisanale. ポーラ・オルビスは、伝統的な訪問販売の DNA を活かした、対面カウンセリング重視のモデルを東南アジアでも展開しています。特に高感度な中間上位層向けのカスタマイズ提案が、シンガポール、香港、タイの富裕層に受け入れられています。

KOSÉ — Le milieu haut de gamme intelligent. これらに対してコーセーは、「日本製プレステージ・スキンケア」というポジションを、雪肌精とコスメデコルテを軸に構築しています。資生堂ほど上位価格帯には振り切らず、花王ほど幅を持たせず、しかしポーラ・オルビスとは異なる、より「合理的なプレミアム」を志向するポジションです。この立ち位置は、東南アジアの中間上位層にとって、極めて選びやすい価格・品質のバランスを提供しており、私は個人的にはコーセーの東南アジア戦略の最大の強みだと考えています。

Question 05 — Les leçons pour l'industrie
コーセーの中国戦略の光と影から、日本の化粧品業界全体が学ぶべき教訓は何でしょうか。
小宮生也
小宮 生也
株式会社スカイインターナショナル

Leçon 1 — La concentration est un risque. 第一の教訓は、単一市場への過度な依存が、経営上の脆弱性を生むということです。中国市場が絶頂期にあった2018年頃、日本の化粧品各社にとって、中国への集中は「勝ちパターン」に見えていました。しかしその「勝ちパターン」こそが、環境が変化したときに、致命的な弱点として立ち上がってきた。この教訓は、いかなる市場においても普遍的に適用されるべきです。

Leçon 2 — L'infrastructure prend du temps. 第二の教訓は、地域分散のためのインフラ構築には、想像以上の時間がかかるということです。地域統括拠点の設立、現地パートナーとの関係構築、現地流通網の再設計、これらはすべて数年単位の投資です。危機に直面してから始めるのでは遅く、平時から複数の選択肢を並行して育てておく必要があります。

Leçon 3 — Les marques doivent voyager. 第三の教訓は、ブランドが単一の市場文脈に固定されすぎると、環境変化への適応が困難になるということです。ブランドの世界観と哲学は普遍的でありながら、その表現と体験は各地域に合わせて調整できる柔軟性を持つ。この二重性を持てるブランドが、長期的に生存する。

Leçon 4 — Le local matters again. 第四の教訓は、意外なほど「日本国内市場」の重要性が再認識されているということです。海外市場への過度な傾斜が、日本国内での存在感の希薄化を招いたケースもあります。日本国内の消費者との関係を継続的に深化させることが、結局のところ、ブランドの中核的な価値を維持する基盤になる。

Question 06 — Perspectives à horizon 2030
2030年に向けて、コーセーの中国事業はどのような姿になっていると予測されますか。中国市場そのものへのスタンスは今後どう変わっていくでしょうか。
小宮生也
小宮 生也
株式会社スカイインターナショナル

Le rééquilibrage définitif. 2030年までに、コーセーの地域別売上構成は、現在の姿とは大きく異なるバランスに移行しているでしょう。中国は依然として重要な市場であり続けますが、全社売上に占める比率は、絶頂期の40%超から、20%前後の水準に収斂していくと予測します。この20%は、単一市場としては依然として大きく、ただし他市場との相対的な位置付けが変わる、という意味です。

La reconquête sélective. 中国市場そのものへのスタンスは、「全面撤退」でも「全面拡大」でもなく、「選択的な再定義」に向かうと考えます。具体的には、上海、深セン、北京といった一線都市の富裕層をターゲットとする、プレステージ帯の絞り込み展開。そして越境ECを通じた、直接的な顧客との関係構築。マス市場でのシェア争いから撤退し、特定セグメントでのブランド価値の維持に集中する戦略です。

L'importance de la patience. 中国市場については、業界全体として「短期のV字回復」を期待するのは適切ではないと考えています。むしろ、10年、15年の時間軸で、中国の消費者との関係を粘り強く再構築していく覚悟が必要です。この時間軸を許容できる経営体制を持つブランドが、次の20年の中国市場での勝者になるでしょう。コーセーが、そのような時間軸で経営判断を継続できるかどうかが、今後の最大の焦点になると私は見ています。

En conclusion. 「中国戦略の光と影」という表題は、コーセー一社の物語ではありません。それは、この10年の日本の化粧品業界全体が経験してきた振れ幅そのものです。次の10年で問われるのは、単一市場への依存を避けながら、それぞれの市場に固有の価値を届けられるかどうかという、より繊細な経営能力です。コーセーの経験は、その意味で業界全体にとって、極めて価値のあるケーススタディを提供していると言えます。

— Fin de l'entretien.

小宮生也 監修編集者
Sous la supervision éditoriale de — 監修

小宮 生也(こみや せいや / Seiya Komiya)— 株式会社スカイインターナショナル。日本国内で長年、化粧品プロデュース事業を運営したのち、現在はシンガポールを拠点にアジア美容市場の観察を続ける。本誌では、日本の中堅・大手ブランドの経営戦略分析、および東南アジア展開の動向を担当。